相続をテーマに扱った今注目の漫画「相続探偵」
元弁護士で現在は探偵を営む灰江七生が持ち前の法律知識を駆使して数々の相続トラブルを解決していくという極上ミステリー作品です。

ストーリーもさることながら法律的な知識もしっかりと学ぶことのできる作品でそのクオリティの高さから早くもドラマ化も間違いなしという声まで聞こえています。

そんな相続探偵。
8月23日に待望の第2巻が発売されました。

相変わらずの灰江のキレ味には脱帽の一言だったわけですが・・・エピソード「鎌倉の屋敷と兄弟と」のなかで新たな相続用語で遺留分という用語が登場。

さらにはその遺留分としての葉月の受け取るべき額が2250万円というシーンがありました。

このてん何故この金額になるのかという点が言及されていなかったため(コミックス1巻のように巻末おまけページで補足があるかと思いきやなかったため・・・)「どうやったらこの金額になるんだ?」と疑問に思われた方も多いのではないでしょうか?

そこで今日は「相続探偵2巻ネタバレ考察 葉月の遺留分額の計算方法は?」として迫ってみたいと思います。(同じくエピソード「鎌倉の屋敷と兄弟と」に登場した相続欠格についてもコチラに記事をまとめました。)

➀相続探偵2巻に登場した遺留分とは?

まずは今回登場した遺留分について簡単にお話ししましょう。

遺留分というのは一定の相続人が最低限取得することが保証されている相続財産の割合を意味し改正民法1042条に規定されています。(改正前は1028条に規定されていた)
では以下条文を見てみましょう。

〇民法第1042条(遺留分の帰属及びその割合)

1.兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第1項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。

・直系尊属のみが相続人である場合・・・三分の一

・前号に掲げる場合以外の場合  ・・・二分の一

2.相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第900条及び第901条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

よくサスペンスドラマなどで「全財産を愛人に譲る」などといった遺言書がでてきますが、この民法1042条の規定によりその遺言書の文言通り全財産が赤の他人にわたってしまう・・・ということがないよう工夫されているのです。

もっともこの遺留分は相続人が死亡した人の兄弟姉妹というう場合は保証されていないので若干の注意は必要ですが・・・

➁相続探偵2巻に登場した遺留分・・・葉月の遺留分額を実際に計算してみた

では遺留分について一通りみたところで今回の相続探偵2巻の葉月の受け取るべき遺留分額の計算を実際にやってみたいと思います。

今回登場した城丸足高と葉月の兄弟は父母を同じくする兄弟。

遺留分としては亡くなった両親の財産の全体の2分の1を兄弟として受け取ります。
そして民法900条第4項子が複数いるときは各々等しい割合で遺留分を受け取ることになるため兄弟の遺留分として受け取った両親の財産の2分の1をさらに等分する・・・
つまり各々が4分の1ずつ遺留分として受け取る権利があるということになります。

ではここで遺留分に基づいた葉月の財産の受取金額が2250万円になるのか実際に計算してみたいと思います。
いまいちど民法1042条の条文を見てほしいのですが遺留分は「亡くなった人の手元に残っている財産」をもとに計算するのではありません。
「次条=民法1043条に規定する遺留分を算定するための財産の価額」をもとに計算を行う必要があります。

ここでまた条文を見てみましょう!

〇民法第1043条

遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。

今回葉月の両親の手持ちの財産は価額がいくらになるか不明な実家の家屋と土地くらいのものでした。
しかし灰江により生前に兄である足高が9000万円の贈与を受けていたことが判明するわけですがこの9000万円が「贈与した財産の価額」として遺留分算定額に加わることになります。
そして幸いなことに両親に債務=借金はなかったため算定額は以下のようになります。

遺留分算定額=相続開始の時に有していた財産の価額0円+贈与した財産の価額9000万円ー債務の全額0円=9000万円。

そしてこの9000万円の4分の1が足高・葉月兄弟の遺留分として保障される額ということになり9000×4分の1=2250万円ということになるわけです。

⓷相続探偵・・・葉月の遺留分は民法改正がなければ0円だった!!

さてこのように葉月の遺留分は現行の民法にのっとったうえでの計算において作中通り2250万円となるわけですが・・・現行の民法は最近になって改正された民法。
もし民法の改正がなければ葉月の遺留分は0円ということになっていた(!)という点もお話ししたいと思います。

現行の民法では遺留分算定額に加わる贈与について第1044条に規定しています。
また実際に条文を見てみましょう!!

〇民法第千四十四条

1 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。
当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。

2 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。

3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に
限る。)」とする。

今回足高への9000万円の贈与は両親の死亡から3年前に行われていたものでした。
原則として遺留分算定額に加わる贈与は相続開始の1年前・・・すなわち被相続人の死亡から1年内の贈与に限られます。

しかし第3項により相続人に対する贈与は死亡前10年内の贈与を参入する扱いとなっているために3年前の9000万円の贈与が遺留分算定額に加わるということになります。

・・・ところがほんの少し前の改正前の民法では相続人に対して行われた贈与であっても1年内の贈与のみが遺留分算定の対象でした。

すなわちもし民法改正がなければこの3年前の9000万円の贈与は遺留分の算定額から外れていたことになり遺留分算定額は以下のようになってしまうのです。

遺留分算定額=相続開始の時に有していた財産の価額0円+贈与した財産の価額0円ー債務の全額0円=0万円

遺留分算定額が0円である以上はそれに4分の1を掛け算しても0円ですよね?
すなわち葉月の遺留分額は0円で危うく泣き寝入りするところだったのです・・・思わずゾッとしてしまいますよね(汗)

⓸「相続探偵2巻ネタバレ考察 葉月の遺留分額の計算方法は?」まとめ

以上「相続探偵2巻ネタバレ考察 葉月の遺留分額の計算方法は?」まとめでした。

しかしこうやって改めて記事にしてみても本当に民法改正まで踏まえたうえでよく研究されているなと改めて原作者の方には頭が下がります。

これからもどんどんクオリティの高いエピソードを見せてほしいと思います。