本ブログで度々お話していますが私は車検場で自動車登録官として自動車やバイクの名義変更を担当していた元国家公務員です。

そんな私が今一番関心がある出来事が来年から施行される自動車やバイクの車検証の電子化(ICカード化)
です。

いままではなんとなくしか制度概要が分からなかったのですがこの8月になりようやく国土交通省本省から車検場の方に詳細な制度概要を説明した資料が配布されたようです。

私も現役職員からその資料を入手し大体の制度概要を把握することができました。
以下「自動車車検証の電子化はOSSと行政書士を活用し職員の人員削減に備えたい国土交通省の絵空事」としてまとめていきます。



➀車検証電子化の制度概要 車検証の記載事項を券面記録事項と記録事項に細分化

現在の車検証には所有者の氏名や住所自動車のナンバーや車台番号さらには長さ幅高さなどの諸元など様々な事由が記載されています。
そしてこの車検証に記載する事項は省令で何を記載するかが細かく規定されています。

ところが車検証の電子化によってこの省令が改正され現在の車検証の記載事項が「券面記載事項」「記録事項」の2つに細分化されることになります。

券面記載事項は従来通り電子車検証に印刷される事項です。
そのためその記載内容は電子車検証を見ることで確認できます。

しかし記録事項は非常に厄介です。
この事項は電子車検証には印刷されず電子車検証のICチップ内に記録されるデーターです。
この記録事項のデーターを確認するためには専用のアプリから閲覧する必要があります。

そして上述の省令改正により所有者の氏名や住所も記録事項となり車検証を見ただけではその内容が確認できなくなります。(このてんトラブルが懸念される改悪点といえます。)

➁車検証の電子化制度概要 電子の車検証は発行作業が従来より手間と時間がかかる!

現在の車検証はOCRシートという申請書をMOTASという自動車登録用の専用のシステム機械に読み込ませることで➀新しい名義人や新しい住所などの変更内容を反映した紙の車検証➁車検証以外のの交付物⓷登録官が審査を行う書類が発行されました。

登録官は印鑑証明書などの書類と上述⓷の書類を突き合わせて申請内容を審査し問題なければ上述➀➁を申請人に交付するというかたちで処理を行っています。

しかし電子化によりOCRシートを機械に読み込ませることで印刷されるのは➀電子車検証以外の交付物及び➁登録官の審査を行う書類のみ。
電子車検証はこの段階では印刷されません。

電子の車検証は登録官の審査後に機械からもうひと手間電子車検証の「発行」の処理を行うことで印刷されるようになります。

これが数秒で発行されればまだいいのですが電子車検証の印刷は1回20秒ほどとのこと。

従来より車検証の受け取り時間が延びることは必須!
申請人の苦情が殺到することが予想されます。



⓷車検証の電子化制度概要 電子車検証の処理は「発行」と「更新」の2種類存在する!

さて従来は名義変更や住所変更ほぼすべての手続きに対して新しい車検証を交付し旧内容が記載されていた車検証と交換していました。

しかし車検証電子化以降は大きく取り扱いが変わります。

まず来年1月以降に何らかの手続きを車検証で行うことで紙の車検証から電子車検証に切り替わる場合や電子の車検証に印刷されている券面記載事項に変更が生じる手続きを行う場合は新しい電子車検証が発行する「発行作業」によって処理が行われます。
要は従来通り車検証を既存の車検証とと新しい車検証を交換するかたちです。

対して電子車検証のICチップに記録された記録事項のみを変更する手続きの場合は新しい電子車検証は発行されずICチップに変更内容を上書きする「更新作業」が行われます。

この更新作業の場合は車検証は既存の車検証のICチップの上書き保存処理後に申請人にお返しすることとなり車検証の交換作業が発生しなくなります。

⓸車検証の電子化 電子車検証の「更新」は変更記録事務代行制度により外部委託が可能!

さて上述のように電子車検証での処理は新たな電子車検証を交付することになる「発行」とICチップ内に記録された事項を上書き保存することで電子車検証自体はそのままの物を引き続き使用する「更新」の2種類存在することになります。

このうち発行については電子車検証は車検場が保管する専用の用紙に印刷することになっているため必ず車検証に出向いて手続きを行う必要があります。

しかしその一方で更新はICチップ内の更新のみ。
極端な話機械設備さえあれば誰でも可能なものです。

実は車検証電子化最大のポイントはここにあります。
この電子車検証の更新作業を「変更記録事務」としてアウトソーシング・・・すなわち外部委託することで申請人が車検場に出向く手間を防ぐとともに国家公務員の進む人員削減に対応できるようにすること。

これがこの車検証電子化における国土交通省の狙いなのです。

もっともこの外部委託は設備さえあれば誰でもいいというわけではありません。
現状は車検場と密接なつながりのある士業の代表例である行政書士又は行政書士法人のみが委託の対象となっています。

⓹変更記録事務委託による更新手続きを行うための要件 OSSシステム

そしてこの行政書士又は行政書士法人による更新作業によって車検証の名義変更などの手続きを行う場合1つ絶対的な要件があります。

それはOSS(ONE STOP SERVICE)という国交省が自動車の登録申請用に開発したシステムを利用したうえで申請手続きを行うということです。

今は車検場に出入りする行政書士の多くはこのOSSシステムによる申請手続きを行っているためすでにOSSシステム導入済みの行政書士に名義変更や住所変更の申請手続きをまるまる依頼した場合があてはまります。

またこのOSSはネット環境さえ整っていれば一般個人の方でも利用可能です。
そして一般個人の方がOSSによって自分で名義変更や住所変更を行い電子車検証の更新手続きのみを行政書士さんに依頼するというかたちでもOKという扱いになっています。

ちなみにこのOSSシステム。
国交省が多額の予算をかけ開発したものの普及率は今一つ。
私などはクソシステムと呼んでいました(笑)
(マイナンバーカードの普及率がイマイチなのを見ても行政が率先して開発する者は本当に国民のニーズに沿っていない)

おそらくですが車検証の電子化というどさくさに紛れてこのOSSの利用促進を図るべくOSSを利用した申請のみに限り行政書士による更新が可能となり車検場に出頭しなくても手続きを可能とした・・・そんな背景がありありと読みとることができます。

⓺「自動車車検証の電子化はOSSと行政書士を活用し職員の人員削減に備えたい国土交通省の絵空事」まとめ

以上「自動車車検証の電子化はOSSと行政書士を活用し職員の人員削減に備えたい国土交通省の絵空事」まとめでした。

ちなみにですが現在の車検証の記載事項の中で自動車登録官がチェックするのは➀所有者の氏名➁所有者の住所⓷使用者の氏名⓸使用者の住所⓹使用の本拠の位置の主に5つ。

このうち車検証の電子化によって券面記載事項として電子の車検証に印刷されるのは⓷の使用者の氏名のみです。

つまり使用者の氏名に変更がない手続きであればOSSシステムを利用してもらい行政書士に更新手続きを外部委託するということが可能になります。

しかし実際問題車検場でこのような使用者の氏名に変更が生じない手続きはそんなに多くはありません。
国土交通省は今回の制度がうまくいけば行政書士を活用することで驚異的なペースで進む職員の人員削減に対抗できると考えているようですがそれはお花畑の空想です。

これから車検場の職員たちには地獄が待ち構えていることでしょう(笑)