日頃我々はさまざまのモノを使用して生活をしていますよね。
 そんなモノには日々様々な権利が発生・変動しています。
 例えばモノを売買すれば所有権が変動しますし、モノを担保にお金を借りる場合は担保物権という権利が発生することになります。

 一般的に不動産や自動車といった比較的高額なモノについては役所で登記や登録といった手続きをすることが義務付けられていて権利の発生や変動があれば一定期間内に手続きをすることになっています。
 そして権利関係を登記登録することで堂々と第三者に対しても自己の権利を主張できるという効力を有するのですが、面倒くさいうえお金がかかるという理由で何も手続きしないというケースも多々見受けられます。

 さて、最近この登記登録を推進させようという動きがみられます。
 とくに不動産登記を扱う法務局においてはその動きが顕著です。
 戸籍謄本の代わりとなる家族関係証明書や遺言書についての保管制度の運用開始などの動きが見られます。

 仕事がら登記登録関係の仕事をしていることもあり登記登録推進の流れは大歓迎なのですが、実際役所時代に登記・登録を怠っていたために手痛い目にあってしまった申請人の方をおみかけする機会がありました。

 今日は速やかな登記・登録を行うことがいかに重要かということを当時の経験を交えながらまとめたいと思います。

担保物権の代表例・・・抵当権

 例えばお金を誰かに貸し出す場合、万一貸した人がお金を払わずに夜逃げをしてしまってもあらかじめ貸したお金と同じ価値のモノを担保(人質)として預かっておき不測の事態はそれを売却してその売却金額から貸したお金を回収できれば貸す側は安心ですよね。
 こういった万一の不測の事態に備えるためのモノに対して設定する権利を担保物権といいます。
 とくに法律漫画が好きな方であれば抵当権という言葉を目にすることが多いと思いますが、まさにこの担保物権の代表例がこの抵当権です。
 
 同じ担保物件の代表例として質権と言うものがあります。
 この令和の時代においても町を歩いていると質屋さんをみかけることがあります。
 質屋さんはお金を借りる際に担保となるモノを質屋さんに預ける必要があります。

 対して抵当権はモノ自体は債務者の手元に残ったまま設定することができる権利です。
 しかしそれでは一見そのモノが抵当権の対象になっているかどうか判別はできませんよね?

 そのため抵当権は設定するモノが登記や登録制度の対象となっているものに対してのみ設定できる扱いになっています。
 そして登録制度の対象である自動車についても抵当権は設定できます。

 この抵当権の設定手続きで役所時代ある出来事が起こりました。

自動車の抵当権の設定申請のご相談

 あるとき、とある会社の方(Xさんとします)が私のもとに自動車について抵当権を設定したいと相談に見えました。

 その方はお金を貸す側の会社の方で、社内で融資の際に借りる側が所有者として登録されている自動車について不測の場合に備えて抵当権を設定しようという話になったとのことで相談に見えられたのでした。

 そこで手続きに必要な書類(抵当権設定契約書、借主である所有者の印鑑証明書及び委任状、貸す側の会社の登記簿謄本及び委任状などなど)をご説明。

 その後は電話はFAXなどのやりとりで書類を確認し、あとは申請するのみというところまでこぎつけました。

 ところがちょうど会社が繁忙期ということで申請手続きは今すぐと言うわけにはいかず、2週間後くらいになりそうだということでした。(これが後々明暗を分けるのですが・・・)

アクシデント発生!!

 ところが最後のやりとりからわずか3日後Xさんがやってきます。
 しかもXさんだけでなく全部で10人ほどです。それも貸す側・借りる側双方の社長さんクラスの方々です。

 予定より速い来所の上、重鎮の方々までいらっしゃるなんて変だなとは思ってのですが・・・
 Xさんに「予定より速いうえ、こんな大所帯でどうしたのか?」を尋ねるとXさんからとんでもない回答が返ってきました。

 なんと「お金を借りる側の会社の社員が、会社の印鑑証明書や実印を持ち逃げし、あげくはその実印を使用して書類を作成し抵当権を設定しようとしていた車両を自分名義に変更している可能性があり急いで調べに来た」と言うのです。

 実際調べてみると最後のやりとりをしていたときは間違いなくお金を借りる側の会社名義だった車が、個人名義へと変更されていました。

 しかもXさんらが来所する1時間以内に手続きされたようなかんじでした。

登記・登録は第三者への対抗要件

 登記や登録と言うのは自分の権利を誰に対しても主張できる第三者対抗要件です。
 新たに抵当権を設定する予定だった車の所有者は借りる側の社員の方個人名義になってしまったわけですが、この方の名義になった以上「この自動車の所有者は自分である」ということを堂々と主張することができます。

 また名義変更の書類に不備があるわけでもなく、たとえ会社の方が「名義変更の書類は会社の実印を不当に使用して作成された虚偽の書類だ」と主張されても一方の主張をもって 登録を取り消すというわけにもいきません。

 どうすることもできす、結局、抵当権の手続きについては完全に話がなくなってしまいました。

登記・登録はやったもん勝ち

 このように登記・登録は自己の権利を主張できるもので「やったもの勝ち」という側面があります。
 今回のケースでは勝手に名義を変えたとされる個人相手に訴訟を起こし、その結果次第では再び借りる側の会社名義に所有者を戻すということもできるのですが、あくまで裁判の結果次第です。時間もかかります。

 できるときに速やかに行うのが一番間違いがありません。
 特に自動車の相続手続きは制度がざるです。いくらでも悪用することができる現状があります。

 いざというときにできないということがないためにも可及的速やかに登記・登録は行いましょう!