第2次大戦中に強制労働をさせられたとして韓国人4人が新日鉄住金(旧新日本製鉄)に損害賠償を求めた訴訟。いわゆる徴用工訴訟に基づく差押え手続きに対し新日鐵住金側が即時抗告を行ったニュースが大きく報じられています。
今後この即時抗告に対して韓国の司法がどのような判断を下すのか注目です。(・・・といっても最高裁が原告の主張を認める判決を出している段階で即時抗告も却下あるいは棄却となる可能性が極めて高いと思いますが・・・)
さて私も公務員時代判決文をもとにした自動車の所有権移転手続きを行った経験が何度もあります。
もっともそれらの手続きは日本の裁判所の判決文をもって行う手続きです。
今回の徴用工訴訟に基づく差押えは新日鉄住金の韓国内に所在のある財産が対象に行われたのですが、もしこれが仮に日本国内に所在のある財産に差し押さえを行うといった場合韓国の裁判所の出した判決文は効力を有するのでしょうか?
今日は外国の裁判所による判決文をもとに日本国内で強制執行手続きが可能なのかどうか見ていきたいと思います。
目次
日本における強制執行手続き
判決文などをもとに相手側の財産を差し押さえ競売にかけ換金しそのお金をもって自己の債権の充当に充てるという一連の流れを強制執行手続きと言います。
日本における強制執行手続きは民事執行法という法律に規定されています。
そして民事執行法においては➀原告あるいは債権者側の判決文に代表される債務名義の取得+➁裁判所による執行文の付与の2つが強制執行のための必要手続きであるとされています。
そしてこの債務名義については民事執行法22条に具体的に列挙されています。
民事執行法22条・・・具体的な債務名義は?
では実際に民事執行法第22条をみていきましょう。
強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
一 確定判決
二 仮執行の宣言を付した判決
三 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
四 仮執行の宣言を付した支払督促
四の二 訴訟費用若しくは和解の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第42条第4項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては、確定したものに限る。)
五 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
六 確定した執行判決のある外国裁判所の判決
六の二 確定した執行決定のある仲裁判断
七 確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)
注目は六です。外国裁判所の判決とハッキリ規定されていますね?
したがって外国の裁判所の判決文をもって日本国内での強制執行手続きに使用することは可能なのです!!
・・・ただし注意が必要です!!
文言に注意!ただの外国裁判所の判決では債務名義として認められない!!
22条の一と六の条文をよーくみてみましょう。
一は「確定判決」としか記載がないのに対して六は「確定した執行判決のある」外国裁判所の判決となにやらややかしい文言がくっついていますよね?
ただの外国の判決文では債務名義としては不十分で、この「確定した執行判決のある」外国の判決文という要件を満たして初めて有効な債務名義となるのです。
「確定した執行判決のある」とは?
ではこの「確定した執行判決のある」とは具体的にどういうことを指すのでしょうか?
執行判決と言うのは、外国裁判所の判決による強制執行に対して、その執行ができる旨を宣言する判決のことを指します。
そして民事執行法24条により以下のように規定されています。
民事執行法第二十四条
外国裁判所の判決についての執行判決を求める訴えは、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄し、この普通裁判籍がないときは、請求の目的又は差し押さえることができる債務者の財産の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
・・・難しい文章が並んでいますが普通裁判籍と言うのは債務者が個人であれば住民票上の住所。法人であれば本店所在地と考えてください。
そしてその債務者の住所地や本店所在地を管轄する地方裁判所に執行判決を得るための手続きをし、その執行判決の確定を得て初めて民事執行法22条に規定する有効な債務名義となるのです。
「外国判決の効力。日本での強制執行は可能?」まとめ
以上「外国判決の効力。日本での強制執行は可能?」についてみてきました。
結論としては日本の管轄地方裁判所で確定した執行判決を得たものであれば外国の裁判所での判決文をもって日本国内での強制執行手続きに使用が可能ということになります。